(や) 素朴に考へ、コロナ対策費にこれだけつぎ込み、日本国財政が (他国財政も)、もつとは思へない。ほんたうのところは、どうなのか。わたしどもが注目する、吉田繁治先生が、『アフターコロナ 次世代の投資戦略~財政・金融の危機を資産づくりのチャンスに変える』(ビジネス社2020年8月15日) を、公刊してゐます。総合議論がなされてゐますが、ここでは、財政問題についてのみ、紹介させていただきます。まづ、日本国財政破産確率について、吉田先生の見解です。
(『アフターコロナ』35~36ペより) 金融と経済は多くの要因が入り組んだ「複雑系」です。将来のことは、株価予想とおなじように確率でしかいえない。直観的にいって、早ければ2022年末、おそくとも23年に財政が破産に向かう確率は70%と見ています。
ただし22年から2%のインフレにはならず、物価上昇がゼロ%台を続けるなら (30%の可能性) ば、0%の国債発行もできるので財政破産は先送りされるでしょう。これは、「先送りされるだけ」であり、なくなるのではない。日本の政府負債は財政が赤字のため、毎年増え続けるからです。物価が2%から3%上がる時期がきて、金利が2%から3%に上がると、日本の財政は新興国のように破産します。
今回のコロナショックから、日本の財政はほぼ永久に黒字へ転換しないことが明らかになったので、財政破産は「それがいつかという時期の問題があるだけ」です。財政が黒字にならないかぎり、将来の破産は決まっているからです。コロナ対策費の225兆円 (税収の3.5年分の赤字) を出すことにより、破産の時期が3年は近づいたといえるでしょう。
(や)「円国債はほとんど国内所有だから、円国債の売り浴びせはない。」といふ通説に対しては、今の金融について無知すぎると、指摘してをられます。
(同38~39ペより) 先物売りは、円や円国債の現物をもっていなくてもNY、ロンドン、シンガポール、香港の債券市場でいくらでも行えます。海外の金融機関がもっていない国債も債券市場での「先物売り」が、いくらでもできます。先物売りに似た「空売(からう)り」は、現物の証券を証券会社から借りて売るものです。先物と同じように、下がるとき利益が出ます。上がるときは損が出ます。
「海外は、円国債を少ししかもっていないから、円国債を売り浴びせることはできない」という通説は、デリバティブに属する先物が多い世界の債券市場を見ていないことからの間違いです。株と国債では、金額の大きくなった先物の売買が債権の価格を先導して動かしています。
1990年代の「デリバティブも生んだ金融の工学化 (エンジニアリング)」の進展とともに、先物の売買が、現物の売買に対して何倍にも増えてきたからです。
(や) 人間は、追ひ込まれると、自分勝手な理屈に、しがみつくものです。“流行”のMMT (現代貨幣論) は、そのたぐひのものと、わたしどもも考へます。たとへば、「中央銀行が赤字国債を買ひ取れば、政府の借金は減るから財政破産するわけがない。」などの“理論”。吉田先生は、MMTについて周到に論じ、かう結論してをられます。
(同76ペより) MMTは、対外債権国の①ドイツ、②スイス、③そして自由には外貨が買えない (=自由な元売りができない) 資本規制がある中国に有効でしょう。
しかし①対外純資産が341兆円あっても、政府の国債が1300兆円 (2022年想定) と大きすぎる日本、②対外純債務が10兆ドル (110兆円) と大きい米国 (対外負債37兆ドル:対外資産27兆ドル:2018年)、③対外純債務が多いフランスと英国には適用できません。
いや、いくらでも適用はできますが、中央銀行、銀行、政府は同時破産します。
預金も引き出しができず、封鎖せざるを得なくなるのです。
MMTの有効性は各国の資産、負債の状況で異なります。ここを強調しておきます。…
(や) そして、吉田先生による、アベノミクス総括です。
(同296~297ペより) アベノミクスの8年は経済成長のために退出させるべきだった企業を、異次元緩和とゼロ金利によって延命させてきた面があります。寿命が来ていた既存産業を金融的に保護したことが、社会全体のITと技術イノベーションを抑圧してきた面ももっています。
総負債1322兆円の大きな政府がマネー資源を食いつくし、わが国の経済成長をもっとも大きく阻害しています (国債1121兆円+借入金201兆円:20年6月:日銀資金循環表)。日銀が、①既発国債の平均金利を0.6%と低くし、②1322兆円の政府の負債に対して、利払いが年平均で8兆円という少なさで済むようにしたことが、財政の改革を遅延させて国民の資金余剰を食いつくしてきた面が明らかに見えるのです。犠牲になったのが国民の銀行預金です。
約500兆円の国債を買い上げる異次元緩和とゼロ金利政策がなければ、政府は2015年ころにデフォルトに瀕したはずです。これによって赤字財政の縮減に取り組まざるを得ず、国民の貯蓄はイノベーション力をもつ成長企業に向かってきたことでしょう。異次元緩和は寿命が尽きていた既存の体制を延命させ、代わりに新規産業を抑圧してきました。
資本主義経済では、不況のあとに成長、危機や恐慌のあとに大成長があります。第二次世界大戦の敗戦で財閥資本が消滅したかつての日本では、1960年から新しい世代によって二桁の高度成長になっていったのです。
この点で異次元緩和は負債の危機をなくして、既存の経済体制を延命させる社会主義金融でした。この社会主義金融の犠牲になったのが、1000兆円の預金の金利がゼロ%になった世帯です。正常な金利3%なら1年に30兆円、1世帯平均では57万円 (1か月4.7万円) の金利収入があり、給付される年金の不足も補填できたのです。
異次元緩和は世帯の金利所得 (総額30兆円:消費税15%分) を、総負債1322兆円の政府部門に所得移転させました。加えて安倍政権で消費税は5%上がっています (税収で約10兆円)。合計で1年40兆円 (消費税20%分) が、世帯から政府部門に所得移転されました (8年間合計で320兆円)。こんな内容で消費需要 (GDPの60%) が増えるはずもなく、日本経済が成長して国民所得が増えるわけはないでしょう。
(や) とにもかくにも、吉田理論にもとづく政治を、切望いたします。